東西南北 春夏秋冬 ヨーロッパの旅

カンパーニャ と ローマ・ヴァティカン イタリア

第四部 ローマ・ヴァティカン編


D13. ラファエロ -3. 火災の間
(ヴァティカン博物館 -12.)


メディチ家の教皇レオ10世とラファエロ

西暦1508年にラファエロがヴァティカンで制作を開始した当時のローマ教皇はローヴェレ家出身のユリウス2世だった。その後、西暦1513年にはフィレンツェメディチ家出身のジョヴァンニ・デ・メディチがローマ教皇レオ10世として即位。

教皇レオ10世は、ラファエロにヴァティカンでの制作を続けさせたんだ。但し、自分と同じ名前「レオ」を持つ教皇たちの業績をテーマに描かせた。そんな作品が残っているのが、ヴァティカン博物館の中で「火災の間」と呼ばれる一角。

ところが、ルネッサンスの売れっ子芸術家ラファエロは、なかなかに忙しい。ヴァティカンでの仕事の最中にも、フィレンツェのパラティナ美術館に残るラファエロの代表作「小椅子の聖母」を制作したりしているんだ。

そして、西暦1620年に若くしてラファエロが亡くなってしまった。その結果、「火災の間」に残る教皇レオをテーマにした作品群は、かなりの部分がラファエロの弟子たちによって制作されたみたい。ラファエロ自身は一部を手がけたとも、下絵のみを描いたとも言われているんだ。

ラファエロの工房による「ボルゴの火災」

そんな「火災の間」の名前の元となったと思われるのが、下の画像にある「ボルゴの火災」。西暦847年に発生したローマのボルゴ地区の火災の際に、当時のローマ教皇レオ4世が十字を切ることで火を鎮めたという伝説を描いている。

ラファエロの工房による「ボルゴの火災」(火災の間、ヴァティカン博物館、ローマ、イタリア) ラファエロの工房による「ボルゴの火災」(火災の間、ヴァティカン博物館、ローマ、イタリア)

上の画像の左の部分に描かれている老人を背負った人物とその右手の子供が見えるかな。この三人の様子は後のバロックの巨人ベルニーニにも影響を与えたんだ。現在のボルゲーゼ美術館に残るベルニーニの彫刻の一つ「アエネアス(あるいは、トロイを逃れるアエネアス、アンキセス、アスカニウス)」は、ラファエロが描いた三人と良く似ている。

「カール大帝の戴冠式」と教皇レオ3世

続いては、同じくラファエロの弟子達によって仕上げられた「カール大帝の戴冠式」。言うまでも無いけど、中世ヨーロッパに大帝国を築き上げた英雄カール大帝(シャルルマーニュ)が西ローマ皇帝として戴冠を受けた西暦800年の出来事を描いている。その時のローマ教皇はレオ3世だった。

ラファエロの工房による「カール大帝の戴冠」(火災の間、ヴァティカン博物館、ローマ、イタリア) ラファエロの工房による「カール大帝の戴冠」(火災の間、ヴァティカン博物館、ローマ、イタリア)

「オスティアの戦い」とローマ教皇レオ4世

ティベレ川畔に発展したローマは、直接には海に面していないんだ。そこで、ローマの外港として発達したのが、オスティアの街だった。そのオスティアの街は、9世紀頃にはイスラム教徒の艦隊(あるいは海賊)によって脅威を受け、時には襲撃されていたらしい。

そんなオスティア、更にはローマを守るために城壁を築き、艦隊を組織したのが当時のローマ教皇レオ4世だった。彼はナポリアマルフィなどのカンパーニャ地方の諸都市の艦隊を組織し、イスラムの艦隊に対抗させた。そして西暦849年にカンパーニャ地方連合艦隊がオスティアにおいてイスラム軍を撃ち破った。その「オスティアの戦い」の様子を描いたのが、下の画像にあるラファエロ工房の作品なんだ。

ラファエロの工房による「オスティアの戦い」(火災の間、ヴァティカン博物館、ローマ、イタリア) ラファエロの工房による「オスティアの戦い」(火災の間、ヴァティカン博物館、ローマ、イタリア)

ちなみに、この「オスティアの戦い」は、オスマン・トルコに対するキリスト教徒連合軍による遠征という教皇レオ10世の計画を暗示したものだとも言われている。実現はされなかったけどね。

エリート芸術家 ラファエロ

ラファエロは芸術的才能だけではなく、容貌にも恵まれていたんだそうな。加えて極めて愛想が良く、多くの人々が魅了された。

しかも、25歳の若さでラファエロはヴァティカンでの仕事を与えられ、ユリウス2世やレオ10世などのローマ教皇の寵愛を受け、巨額の収入を与えられ、豪華な屋敷に住み、多くの弟子と女性たちに囲まれていたんだ。その暮らしは、まるで大貴族のようだった。

しかし、そんな超エリート芸術家も、死からは逃れられなかった。ラファエロは37歳の若さで亡くなり、ヴァティカンの中のコンスタンティヌスの間は、彼の弟子たちによって完成されることになったわけだ。




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