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手前味噌味 レストラン・レポート
ヨーロッパ・ミソラン・ガイド
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落ちた星 「エノテカ・ピンキョーリ」
(フィレンツェ、イタリア、1999年6月26日)
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Restaurant
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Misolin
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Michelin
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Enoteca Ristorante Pinchiorri
di Giorgio Pinchiorri e Annie Feolde
50122 Firenze
- Via Ghibellina, 87
Phone 055-242777
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予め御注意申し上げます。この「エノテカ・ピンキョーリ」に関するページは、かなり重くなっております。重いといっても、画像が大きいとか多いとかいうわけではありません。話の内容が重いのです。そのようにご理解の上で、お読みください。
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(奥さんも、「このページはちょっと . . . . . 」って、言うてはったわ。ワシもちょっとどうかと思てんねんけどなあ。)
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想い出の店
3 年前の秋のこと。私たちは 9 日間に渡って北イタリアを旅していた。その旅行で、忘れることの出来ない楽しい想い出の一つがイタリアの古都フィレンツェにある。
それがレストラン 「エノテカ・ピンキョーリ」。その店の料理・ワイン・サービス・雰囲気。どれをとっても最高だった。
再びフィレンツェへ
その後、当時はミシュランの三ツ星だったエノテカ・ピンキョーリが、二つ星になったというニュースを耳にした。私たちには信じられないことだった。あの店が二つ星になるなんて。そんなはずはない。納得できない。
そして、あと数ヶ月でロンドン駐在も終わるという1999年6月のこと。私たちのヨーロッパの旅の最後を飾るのはイタリア。再びイタリアを旅して回ることにしたのだ。もちろん、最後のディナーを飾るのは、フィレンツェのエノテカ・ピンキョーリだ。
(その後、状況は変わり、2000年6月現在、今でも私はロンドンに駐在している。このレストランの話とは関係はないが。 [ 更に後日談。結局、私たちが帰国したのは、2000年9月も末のことだった。] )
私たちは、ボローニャ・シエナ・サンジミニャーノを回り、フィレンツェにやって来た。そして、旅の最後の夜。ディナーの為にエノテカ・ピンキョーリを予約してある。
再訪
ホテルで風呂につかり汗を流す。念入りにヒゲを剃る。そして、スーツ・ケースにしまいこんで大事に取っておいたシャツ・ジャケットを身につける。満を持してホテルを出発する。 3 年ぶりだが、地図を見なくても店の場所はわかる。
久々のエノテカ・ピンキョーリ。店内に入り、案内されたのは、壁にかけられた絵の下のテーブル(右の画像を参照)だった。
窓から 2 番目のテーブルだ。
日本人のスタッフ
驚いたことに、案内してくれた係は日本人の女性だった。 3 年前にはフロアには日本人はいなかったのに。しかも、日本人のフロア・スタッフは彼女だけではなく、他に男性も見かけたのである。
アジアの金融危機の後も、日本人の客が増えているのだろうか。彼女に尋ねると、銀座にある支店から来ているのだそうだ。研修だろうか。
どうも変だ
テーブルに落ち着くや否や、アペリティフにスプマンテを勧められた。私は発泡性のワインを殆ど飲まない。胃袋が膨れては、せっかくの料理を食べることが出来なくなってしまうからだ。
しかし、いきなり薦めるからには、店としても自慢のスプマンテなのかもしれない。それでは、その言葉に従って、スプマンテのグラスをもらおう。(本当は、じっくりとアペリティフを選ぶところから始めたかったのだけれど、 ..... 。)
料理とワインを選ぶ
すぐにアミューズ・グールが出てきた。しかし、まずは料理とワインを選ぶことに専念しよう。それから落ち着いてアミューズ・グールを食べることにする。
さて、ともかく料理だ。 3 年前に来たときは、コース料理が 2 種類とア・ラ・カルトというメニューの構成だった。それは今も変わっていない。
3 年前には、トスカナ料理のコースを食べた。それも非常に美味かったのだが、今日は別の料理を試してみたい。もう一つのコース料理に気持ちが傾いているのだが、いやいや、ともかくメニューをじっくり読んでからだ。
せかさないでよ !!
私がメニューを研究している間、日本人の彼女が何度もやってくる。コースがお得だと薦めるのだ。そんなことはわかっている。
しかし、全てを読んでから決めても遅くはない。夜はまだ長い。(この時点では、彼女がコースを薦めるのは、親切から来るものと私は思っていた。)
さんざん時間をかけて研究した結果、私が選んだのはコース料理だった。
しつこいなあ
次はワインだ。やはり、じっくりとワイン・リストを研究する。日本へ帰国してしまえば、 2 度とフィレンツェには来ないかもしれない。悔いが残らないように、満足の出来るワインを選びたい。
ところが、その間も日本人の彼女はやってくる。ワインにもコースがあるという。コースの料理に合わせた数種類のワインを、グラスで出すのだそうだ。
しかし、私はそんなものには興味はない。私には私の予算があり、好みがある。しかも、出来れば、飲んだことのないワインを飲んでみたいのだ。
彼女のしつこい誘いを無視しながら、ソムリエと相談のうえでワインを選んだ。最初は白ワインをグラスでもらう。その後で、赤をボトルで取ることにした。後は料理とワインを楽しむだけだ。
驚いた
驚かされたのはそのときだ。何も言わずにスプマンテのグラスが下げられた。別にスプマンテに固執するつもりはない。しかし、せめて客に断ってから、下げるべきなのだ。
それだけではない。声をかける間もなく、アミューズ・グールの皿も下げられた。ゆっくりと料理とワインを選んでいた私は、まだ手もつけていない。こんな経験は初めてだ。これがミシュラン二つ星のレストランの客あしらいだろうか。
客をせかし過ぎる。料理とワインを選ぶのは、良いレストランでの楽しみの一つだ。しかし、例の日本人の彼女は数分おきにやってくる。そして、断りもなしに下げられたスプマンテとアミューズ・グール。
テーブルの回転を上げたい ??
思い出すのはテーブルの予約を入れたときのこと。私は 8 時からの予約を依頼した。しかし、店からは 7 時半にしてくれとの返事。その時は深く考えることもなく、店の要望に従ったのだ。
ついつい邪推してしまう。この店は客の回転を上げようとしている。早く料理を出し、早く食べさせて、とっととテーブルを片付ける。
もちろん、狙いは売上を伸ばすこと。とても高級レストランの客あしらいとは思えない。少なくとも、このクラスの店で、そんな不愉快な思いをしたことはなかった。
私に店の経営状態がわかるはずもない。しかし、勝手な想像をすることは出来る。例えば、アジアの金融危機が原因で、東京に出した支店の経営が苦しいとか。それ故にフィレンツェ本店の回転を上げたいとか。その為には日本からの観光客を受け入れるとか。
その日本人観光客を効率良く捌くために、日本人のフロア・スタッフを二人も入れているとか。ついつい、そんな風に考えてしまう。
これは全く根拠のない私の想像だ。しかし、少なくとも間違いないのは、この店の客あしらいは高級レストランにはふさわしくない。三ツ星から二つ星に落ちたのも、納得できる。
ワインと料理
しかし、ワインと料理には、さすがはエノテカ・ピンキョーリと思わせるものがあった。
グラスで注文した白ワインもさすがだ。トスカナで栽培されたシャルドネの 97 年。グラス・ワインとはいえ、バカには出来ない。凝縮感のある美味いワインだった。さすがはエノテカ・ピンキョーリ。
料理も美味い。最初に出てきた冷たいトマト・スープ。イタリアのトマトならでは美味さ。その中にはたっぷりとキャビアが入っている。良い味に仕上がっている。
二品目のロブスターに温かな桃を添えたものに関しては、ちょっと首をかしげた。桃の酸味が美味いような気もするが。
三皿目の帆立貝とアスパラのグリルは文句なし。素材も味つけも焼き具合も完璧だった。
二人のソムリエ
ようやく面白くなってきた。四皿目の料理は、フォアグラを白身魚でくるんでグリルしたもの。家内の意見では、この料理に合うのは赤ワイン。私は白が合うと考えた。
面白い。ソムリエにも意見を聞いてみよう。若いソムリエは赤が合うと答えた。老ソムリエの答えは白。これだからレストランの食事は面白い。このやりとりの間に、二人のソムリエと打ち解けてきた。楽しくなるのはこれからだ。
この時点で、私の白のグラスの 2 杯目が空になっていた。もう 1 杯欲しいと若いソムリエに声をかける。彼は赤ワインの入ったデカンタを指差し、声を潜めて私に話し掛ける。
もうすぐ最高の赤ワインの登場だ。今から酔っ払ってはもったいないよ。なるほど、彼の言うとおりだ。極めて的を得たアドバイス。素直に彼の意見に従い、白ワインはここまでにしておこう。
最高の赤ワイン
いよいよ赤ワインの登場。ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ Brunello di Montalcino マドンナ・デル・ピアノ Madonna del Pianno の リゼルヴァ Riserva DOCG 90 年。値段は 60 万リラ( 4 万円)。
今までにレストランで飲んだワインの中でも、最も高価なワイン。最後のヨーロッパ旅行だからこそ飲む気になれた。おそらく、これほどのワインを飲むことは二度とないに違いない。
中年のソムリエ氏がワインを私のグラスに注ぐ。私も真面目にワインに向き合う。収穫して既に 9 年になるというのに、グラスの中のワインは若々しい。
「若いね。まだ 10 年は楽しめるね。」と老ソムリエに話し掛けた。「そうだろう。20年は大丈夫だ。」と彼の答え。彼は、このワインのことが好きなんだ。
グラスを鼻に近づける。グラスを回して、再び香りをみる。タンニンは、まだまだ強い。しかし、柔らかさも感じられる。意を決して口に含む。
急ぐことはない。ゆっくりと味わう。舌の上で感じる味も、喉の奥に流し込んだ後の風味も、申し分ない。全てのエキスが力強く、それでいてバランスが良い。私が今までに口にした赤の中でも、最高のワインだ。
さんざんじらされた家内は、自分のグラスにワインが注がれるや否や、自分の感覚でワインを確かめている。家内にとっても間違いなく最高の赤だとのこと。シャンベルタンの 62 年よりも、ムートンの 88 年よりも、このワインが美味いという。私も同じ意見だ。
ふと目を上げると、部屋の向こうに立つ若いソムリエと目が合った。私たちとこのワインとの出会いの場に立ち会うことが出来なかった彼の目が、「どうだ ?? 」と尋ねている。
私は両手を広げて持ち上げた。香りも味も豊かに立ち上っているということを言いたかったのだ。私の気持ちを理解してくれたのか、若いソムリエ氏も満足げな顔をしてくれた。
哀しい気持ち
次から次へと料理は進む。ウサギの赤ちゃんの料理が出た。その肋骨ときたら、まるで爪楊枝だ。ソラマメほどの腎臓は、臭みもなくて美味い。ほどよく焼き色の付いたレバーは、香ばしくて美味い。
それからラム肉。脂身のないフィレ。表面にはきれいな焼き色がついているが、中はレアだ。臭みもなく柔らかい。これはミルク・ラム(ヒツジの乳飲み子)だろうか。
チーズとデザート
メインの後にはチーズ。それから数種類のデザート。イチゴの濃厚なジュースの中にアイス・クリームを浮かべたもの。メロンとベリーのソルベ。バナナのケーキ。
エスプレッソを飲んで、食事を締めくくる。最後の旅の最後のディナーも終わってしまった。〆てお代は 120 万リラ ( 8 万 5 千円)なり。
想い出のレストランでの 3 年ぶりの食事。料理は全体的には素晴らしい水準だ。もちろん、ワインも最高。さすがはエノテカ・ピンキョーリ。
最高級「観光」レストラン
しかし、哀しい気持ちが尾をひいている。今のエノテカ・ピンキョーリは、最高級観光レストランにすぎない。
あの客あしらいには納得できない。ミシュランの三ツ星から、二つ星に落ちたのも納得できる。良い素材を使い、美味しい料理を出し、立派なワインをそろえ、ワインを愛するソムリエが働き、見事な内装で客を迎える。
しかし、私をゆったりとくつろいだ気持ちにはさせてくれなかった。
破れたエチケット
私の手許には、赤ワインのエチケット(右の画像)が残っている。
例の日本人の女性に頼んで、はがしてもらったものだ。驚かされたのは、日本のラベル剥がしを使っていたことではない。問題は、その仕事があまりにいい加減だったことだ。
右の画像を見ればわかる。ところどころエチケットが破れている。雑な仕事だ。日本のラベルはがしは私も良く使う。プラスティック・フィルムをボトルのエチケットに貼り付け、しっかりと圧迫してから剥ぎ取れば、エチケットの表面を剥ぎ取ることが出来る。
しかし、充分に圧迫しないと、右上の画像のように、ところどころ破れてしまうのだ。彼女からエチケットを受け取ったとき、自分で剥ぎ取ればよかったと後悔した。私たちも日本のラベル剥がしを持っていたのだ。
想い出の店で最高のワインを飲んだ。そして手許には最悪の状況のエチケット。それが最悪の客あしらいを象徴している。
いつかフィレンツェに行くことがあっても、たぶんエノテカ・ピンキョーリに行くことはないだろう。想い出の場所で、再び嫌な思いをしたくはない。
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